2022.03.30公開

[水辺と生きる人々]
3人の子どもを育てた支笏湖。その魅力を伝えて続けていきたい
支笏湖ビジターセンター 吉田香織さん

「支笏湖の自然に造詣の深い人は?」と問うと、必ず名前が挙がるのが支笏湖ビジターセンターの吉田香織さん。ネイチャーガイドとして20年近く、湖畔の散策会や野鳥の観察会などを企画してきた方です。楽しげでユーモアにあふれた語り口は、子どもからお年寄りまで万人にわかりやすいと評判。言葉の端々からは自然に対するあふれんばかりの愛情が伝わってきます。

吉田さんのご出身は茨城県。東京の大学を卒業した平成10年(1998年)、全国の国立公園で宿泊施設を展開する一般社団法人へと入職。初めて支笏湖を訪れたのは、同法人の入職研修時のことでした。

「透明な湖と、豊かに生い茂る緑。360度、美しい自然が視界いっぱいに広がっていて、感激したのをよく覚えています。その時はまさか移住することになるとは…」

 ▲支笏湖ビジターセンターが主催する春の自然観察会

実はこの時、同じ施設で吉田さんの研修を担当していた男性こそ、後に結婚することとなるご主人だったとか。互いにアウトドアや自然が好きなこともあり、すぐに意気投合し交際がスタート。研修期間が終わると2人とも配属や転勤で離ればなれとなってしまいますが、翌年に吉田さんは退職と共にご主人のいる山形県へと引っ越し、晴れて結婚。平成12年(2000年)には長男を授かります。

 初の出産で落ち着かない日々を過ごすものの、心の奥底では互いに「支笏湖で暮らしたい」という想いがあったそう。吉田さんは登山、ご主人はカヌーが趣味。それまでも全国各地の自然に親しんできた二人でしたが、支笏湖は出会いの地でもありその思い入れの深さは特別だったのです。そんな折、夫妻を移住に誘ったのが老舗旅館「丸駒温泉」四代目で、ビジターセンター運営協議会会長の佐々木義朗さんでした。

 「佐々木さんは支笏湖の自然保護と観光の双方で長年リーダーシップをとっている方で、私たちが湖で働いていた時から親交が深かったんです。『湖の未来のために、子どもや若い世代が増えて欲しい』という言葉に深く心を動かされ、心配だった夫の転職についても『宿泊施設での経験を生かして旅館で働かないか』と持ちかけていただき、子どもを連れての移住を決断しました」

 移住翌年には長女を、その4年後には次男を出産。吉田さんは子どもたちを地域唯一の教育機関である支笏湖小学校へと通わせながら、ビジターセンターの臨時職員として働き始めます。

▲支笏湖ビジターセンターは1980年の開館。2019年には来館者700万人を突破している人気の施設です。

「当初は住人がわずか160人ということに驚きましたが、そんなみなさんが昭和の時代のように助け合いながら暮らしていることに感銘を受けました。また子どもたちも可愛がってくれて、私の勤務中もいつも見守ってくれるんです。まるで親戚がたくさんいるみたい。そうそう、長男が小学校の運動会に出た時、職場や近所の方々が勢揃いで応援に来て下さったんですよ(笑)」

 当初は観光案内がメインで、ネイチャーガイドとしての仕事はしていなかったそう。しかし平日は働きながら先輩や上司から自然について教わり、休日には3人の子どもたちと共に水辺や森を散策。時に山に登り、時にカヌーを操るなど、大自然を満喫する生活を送っているうちに、気付けば知識が身についていたといいます。

▲風不死岳を登る吉田さん。仕事、プライベート共に山に親しんでいるそう。

 現在では自然観察会や散策ツアーだけではなく、この地で三人の子どもを育て上げた母親ならではの視点で、親子向け・子ども向けの催しも企画している吉田さん。夏には水辺の生き物を観察する企画、秋には木の実や葉っぱについての面白い話を聞かせてくれる会、冬には森で動物の足跡を探す会と、季節を問わず、子どもたちの思い出づくりに尽力しています。

移住時は0歳だった長男も今は21歳。現在は道内の森林事務所に就職し、森を守るための仕事をしているそうです。

「家族が異口同音に話すのは『やっぱり支笏湖が一番だ』ってこと。かなり長いこと暮らしているはずなのに、ここは毎日が特別。湖も花も、緑や鳥たちも日々姿を変えて、季節の移ろいを教えてくれます。そんな魅力をこの地を訪れた人に伝え、1つでも多くの思い出を残してあげること、子どもたちが大人になっても思い起こすような、そんな自然との出会いを体験させてあげるのが私の役目なんです」

▲豊富な水と緑のある支笏湖は、渡り鳥にとっての楽園。春はオオルリやキビタキ、ウグイスやキセキレイなどが湖を訪れます。吉田さんのお気に入りは「センダイムシクイ」。「緑色がかった褐色の小さな体でちょこちょここずえを飛び回る姿がたまらなく可愛いんです」(撮影:千歳市・若松久仁男さん

ビジターセンターでは野鳥や植生について学ぶことができます。昨年には建物裏手にウッドデッキも完成し、森を見ながらのんびりと過ごせるようになりました。

自然の保護や人々への啓発がビジターセンター職員の仕事。湖畔の清掃活動や整備なども行い、崖崩れやクマの出没情報などをいち早く地域の人々や来訪者に伝えるのも、大きな役割です。

▲春は花も見ごろ。フクジュソウ、エンレイソウなど、色とりどりの花が水辺や森に咲きます。写真はエゾエンゴサク。

支笏湖ビジターセンター
休館日/冬季(12月〜3月)のみ火曜日
営業時間/夏季(4月〜11月)9:00〜17:30、冬季(12月〜3月)9:30〜16:30

マップコード:867 063 417*76

お問い合わせ
支笏湖ビジターセンター (千歳市支笏湖温泉番外地)
TEL
0123-25-2404
URL
http://shikotsukovc.sakura.ne.jp/

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