青く透き通った湖水に、周辺の山々とのコントラストが美しい支笏湖。「日本最北の不凍湖」や「支笏湖チップ」ことヒメマスの産地としても知られています。
ところで、なぜ支笏湖は冬も凍らないのでしょうか?またヒメマス以外に魚はいないのでしょうか。そんな疑問に、支笏湖ビジターセンター職員の先田次雄さんが答えてくれました。
[ウワサその1]支笏湖が凍らないのは本当?
かわたびくん 早速ですが、支笏湖が凍らないのはどうしてですか?
先田さん 凍らない理由は大きく分けて2つ。1つは風が強いことです。特に冬期は常時西寄りの風が吹き、水面をかき混ぜるので、表面に氷が張ってもすぐに風が吹いて壊してしまうんです。もう1つは水深が約360mと、あまりに深すぎることです。冷えた水は湖底に、温かい水は水面へと循環しているので、凍りにくいのです。
かわたびくん へぇ!水温はどのぐらい温かいのですか?
先田さん 水深150m以下でも常に3.7度前後を維持していると言われています。実は、この水温のおかげで標高が高い割に平均気温が千歳や恵庭よりも高いんです。支笏湖は言わば「巨大な湯たんぽ」とも言えるでしょう。
▲支笏湖の水温(相山他1996年を参考)
かわたびくん 本当に凍ったことがないのですか?
先田さん 実はこれまでに何度か、全面凍結した記録や伝聞が残っています。公に記録されているのは1913年と1953年、1978年と2001年の4回ですね。
▲2001年の全面凍結。真っ白な雪に覆われています(同年3月10日撮影。支笏湖ビジターセンター提供)
かわたびくん どんな条件で凍るんですか?
先田さん 条件は「厳しい冷え込み」「大雪」「無風」の3つです。まずマイナス10度前後の日が何日間か続き、その上で大雪が降り続くと、水面がシャーベット状になります。さらに風が吹かなければ、氷結が進んで凍結するという訳です。
かわたびくん それって、結構可能性が低いんじゃ…
先田さん ほとんど奇跡と言っていいような条件です。計算上はおおよそ20〜30年周期で起きていると言えますが、予想はできません。
かわたびくん ところで、凍った湖の上は歩けるんですか?
先田さん 凍結しているのは表面のみで、氷の厚さにはムラがありますので、割れて落ちてしまう危険性があります。みなさんは絶対に歩いてはいけません。
[ウワサその2]「チップ」以外にも魚はいるの?
かわたびくん 支笏湖の魚と言えば、「支笏湖チップ」としてブランド化しているヒメマスですよね。
先田さん ヒメマスは明治27年(1894年)に阿寒湖から養殖のために連れてきた魚で、他にもカワエビやニジマス、フナ、カワマス、ウグイなどが公的に移植されています。実はもともと湖に住んでいた在来種は、アメマスとハナカジカの2種類だけなんです。
▲支笏湖ビジターセンターで展示している支笏湖チップ(ヒメマス)
かわたびくん へぇ。じゃあ合わせて8種類だ。
先田さん ところが、今は17種類もの魚がいるんです。
かわたびくん ん?9種類はどこから来たんですか?
先田さん はっきりとした原因は解明されていませんが、一部は釣り好きな人が勝手に放流しちゃったと言われてるんです。中にはイトウやブラウントラウトなんかの大きな魚もいますし、最近は生態系を壊すことで有名なウチダザリガニまで見つかっています。
かわたびくん それはいけないですね!
先田さん 実は昔、ニホンザリガニが多く生息していたという記録も残されているんです。
かわたびくん ニホンザリガニって、環境省レッドリスト(※)の?
(※)環境省が定める絶滅のおそれがある野生生物をまとめたリスト。ニホンザリガニは「絶滅の危機が増大している種」絶滅危惧II類(VU)に指定されている。
先田さん そうです。かつて支笏湖は一大生息地で、大正4年(1915年)にここで4000匹を捕まえて、大正天皇即位の礼に催された宮中晩餐会でスープに使用されたという記録が残っているんです。ところが昭和初期には激減、現在はもうほとんど見ることができません。
かわたびくん 食べ過ぎちゃった?
先田さん それも一因かもしれませんが、他の生物に食べられたり、餌が無くなったりするなど生息環境が変わってしまったことが大きな原因です。人間のエゴで生態系が変わってしまった悪い例と言えるでしょう。
▲支笏湖で駆除されたウチダザリガニ。生態系を破壊するなどの理由で生きたままの運搬が禁止されている「特定外来生物」です。
[ウワサその3]水の底に柱が沈んでるって本当?
かわたびくん 湖を覗くと、ひび割れや柱のような岩が見えますよね?あれって何ですか?
先田さん 柱状節理(ちゅうじょうせつり)のことですね。火山が噴火して溶岩が冷える際に、五角形や六角形の柱のような形に固まるんです。道内では他に、上川町の層雲峡にもありますね。
▲ビジターセンターで展示している湖と山々のジオラマ。左下から樽前山と風不死岳、右上に位置するのが恵庭岳。
かわたびくん 支笏湖は火山がたくさんありますよね
先田さん この一帯は火山地帯で、長い歴史の中で多くの火山が何度も噴火を繰り返し、現在の支笏湖外輪山が形成されました。湖の元となる支笏カルデラが形成されたのは、およそ4万6千年前、「支笏火山」の大噴火と言われています。
かわたびくん どんな噴火だったの?
先田さん 北海道全体が噴煙で覆われるどころか、高さ3万mまで噴煙が吹き上げるほどの大噴火でした。札幌市内の古い建物で使われている「札幌軟石」は、実はこの時の噴出物が固まってできたものなんです。
かわたびくん へえ!ところで柱状節理はどこで見られるの?
先田さん 水の中にあるのは湖底が覗ける支笏湖遊覧船やダイビングで見ることができます。あとは湖畔にも露出している箇所がいくつかありますよ。見つけやすいのは、山線鉄橋を越えた先、親水広場からモラップキャンプ場にかけての湖畔ですね。この柱状節理は支笏火山の噴火よりはるか昔、200〜300万年前に起きたモラップ山噴火の溶岩によるものです。これほど古い地形が見られるのも、とても珍しい土地と言えるでしょうね。
▲まるで海底に沈む古代遺跡。支笏湖ビジターセンターでその写真や構造を紹介しています。
[ウワサその4]年に数回、「鏡」と呼ばれる現象がある
先田さん これは文字通り、湖面に山が映し出されて鏡のようになることですね。全面が鏡になることはとても珍しいですが、部分的に見えることはありますよ。私は勝手に「半鏡」と呼んでいます。
かわたびくん どんな気象条件の時に見られるの?
先田さん あくまで私見ですが、時期としては2月から4月。移動性高気圧が過ぎて低気圧が来る前、つまり晴れが続いて雲が来る直前が多いですね。時間は日の出から1〜2時間の間、ピタッと風が止まった時に見ることができますよ。2021年には11日間記録しています。
かわたびくん へぇ、先田さんもよく見るの?
先田さん もちろんです。天気図を見て、観測できそうな日は早起きして見に行くんです。
かわたびくん 他の湖でも見られる現象?
先田さん 同じ現象はどの湖でも観測できますよ。富士山手前にある山中湖や河口湖では「逆さ富士」なんて呼ばれていますね。支笏湖ならではの特徴といえば、樽前山、風不死岳と恵庭岳の3つに囲まれているので、どの方角を見ても美しいことでしょうか。みなさんには、ぜひお気に入りの「鏡」スポットを探して欲しいですね。
▲周辺の山々が反射した「鏡」と呼ばれる現象(支笏湖ビジターセンター提供)
◉一般財団法人自然公園財団 支笏湖支部 先田次雄さん Profile
1951年苫小牧市生まれ。高校生の頃から支笏湖を訪れるようになり、30代からは苫小牧民報社の記者として湖にまつわる取材を担当。同社を定年退職後の2013年からは支笏湖ビジターセンター嘱託職員として勤務し、「千歳市史」支笏湖編の編纂にも携わる。
「支笏湖は若い頃から一番身近な遊び場。訪れるようになって50年以上ですが、今でも毎日新しい発見がある湖です」