千歳川の源泉である支笏湖。「支笏湖ブルー」とも呼ばれる青く美しい湖に魅せられ、この地に家族で移住した人がいます。ダイビングやクリアカヤック等のアクティビティツアーを手掛ける企業、株式会社オーシャンデイズ代表の板谷貴文さんです。
(写真提供:オーシャンデイズ)
板谷さんは昭和53年(1978年)釧路市生まれの札幌育ち。21歳の時にダイビングと出合い、沖縄とハワイでガイドとして活躍後、27歳の時に帰郷します。その後、個人事業主としてオーシャンデイズを立ち上げ。支笏湖に初めて訪れたのは平成21年(2009年)、自らが主催するツアーで訪れた時の事でした。
「開発が最小限に留められているおかげか、湖畔がとても静かな事にまず驚きました。更に、南国の海よりも水が青く濃い。数々のフィールドを潜ってきましたが、支笏湖でのダイビングは『自分だけが湖にお邪魔している』という独特の感覚なんです」
さらに、湖畔で暮らす住民同士のつながりが強い事にも驚いたと板谷さん。訪れる度に観光関係者から熱心なお誘いを受け、平成25年(2013年)に一家での移住を決断します。その腕には、前年に結婚したこの実さんとの間に授かった長女・萌音ちゃんが抱えられていました。
「当時は長女が1歳を迎え、このまま札幌で暮らすか、家族としてどう生きるかを考えていたタイミング。自分が社会で果たすべき使命や役割を模索し始めた時だったんです」
そして見つけた使命こそ、会社が掲げるミッションでもある「自然との遊びを通じて、そのありのままの姿を次世代の子供たちに伝えていく」こと。実現のために板谷さんが真っ先に取り組んだのが、支笏湖の水中清掃でした。実はそれまでにも、湖周辺のゴミ拾いや、カヌーアクティビティガイドの「支笏ガイドハウスかのあ」が湖面の清掃を行うなど、官民が一丸となって自然保護活動が行われてきました。しかし水中清掃は容易ではなかったため、板谷さんが先陣を切って行動すると決意したといいます。
「清掃というと、エコやサスティナブルと繋がる模範的な行動と捉えられがち。しかし、僕たちガイドやインストラクターが環境を守るのは、きれい事でも何でもない、ごくごく普通の行動なんです」
ダイビングでゴミを拾うスタッフ。地域の人々とも清掃活動も行っているそうです(写真提供:オーシャンデイズ)
台風や強風などで飛ばされたと思われる巨大なゴミを拾うことも(写真提供:オーシャンデイズ)
支笏湖の水深は約360m。東京タワーもすっぽり沈んでしまうほどの深さに加え、湖水の対流も弱いため、一度湖底に落ちたゴミは半永久的に沈んだまま。さらに不純物が少ない澄んだ水質が災いし、たとえ有機物でも分解のスピードはとても遅いのだそう。
「マナーが浸透していない時代に捨てられた昔のゴミは、清掃を続けていればいつかは無くなるでしょう。しかし、ヒメマス釣りに訪れる人が捨てた釣り糸やルアーは、今も現在進行形で増えています。そんな釣具に引っかかって溺れた鳥の死骸が見つかる事もあるんです」
実際に拾ったゴミはこの地を訪れた観光客が気付くよう、あえて通りに面した店舗のショーウィンドウに飾っています。その多くは、まだ観光地でのマナーが根付いていなかった昭和40〜50年代頃の空き缶や空き瓶です
根気が必要とされる活動。しかし明るい兆しも見えています。
「近年、北海道大学の学生や教職員が、支笏湖漁業協同組合の協力の元、チップ(ヒメマス)等の生態系調査に訪れていたんです。自分も学生たちをサポートしているうちに、同大水産科学研究院・国際教育室水産開発研究グループの東条斉興助教授と親しくなり、画期的な計画が発案されました」
その計画とは、ゴミのマッピングプロジェクト。ゴミのたまっている水域を地図に示し、そのデータ解析を通じて、清掃ルートの確立ができるのだとか。更にデータを共有する事で、観光客や釣り人が自然との共存を考えるきっかけになればと、板谷さんは期待を込めます。
チップ(ヒメマス)やブラウントラウトで知られる支笏湖は、釣り人にとって憧れの地。しかし、環境への悪影響も少なくありません(写真提供:オーシャンデイズ)
「支笏湖で釣りをしてはいけないとは思いません。しかしゴミを放っておけば、いつかは釣りができなくなるでしょう。今では僕も3人の父になりました。この素晴らしい環境を子どもたちに残していくためには、望ましい共存のあり方を追求し続けるしかない。だから僕らは今日も美しい景色を愛で、そこで遊び、そして清掃に精を出す。ただそれだけなんです」
不凍湖である支笏湖は、冬でもウォーターアクティビティができる珍しい地(写真提供:オーシャンデイズ)
七条大滝の氷瀑布など湖周辺の自然をめぐるツアーも人気(写真提供:オーシャンデイズ)
令和3年からはクリアSUPも導入。透明な湖でのアクティビティを満喫できます(写真提供:オーシャンデイズ)
オーシャンデイズ支笏湖本店
定休日/不定休
営業時間/夏季(4月〜9月)8:30〜17:30、冬季(10月〜3月)9:00〜16:30
マップコード:867 063 478*03