2022.08.19公開

[トリビアのみずべ]
千歳周辺の川はかつて海だった?
「貝塚」の秘密を千歳市教育委員会の豊田さんが解説!

ホタテにカキにツブ、アサリにシジミ…貝って美味しくて、ついつい食べ過ぎちゃいますよね。かつて千歳市に住んでいた縄文人たちも貝は大好物だったようで、南部の美々川(びびがわ)沿いには4つの貝塚遺跡が残されています。美々貝塚の「S-1貝塚」はなんと径が15メートル前後、高さ1.1メートルにも及ぶ巨大さというから驚きです。ところで、どうして海のない千歳市に貝塚があるのでしょうか?千歳市教育委員会の豊田主幹に聞いてみました。

かわたびくん どうして内陸にある千歳に貝塚があるの?

豊田主幹 縄文時代は今よりも海面が高くて、千歳市南部、現在の美々川に沿う形で海があったと考えられています。

かわたびくん へー!もしかして今と同じ、温暖化の影響?

豊田主幹 その通りです。と言っても当時の温暖化は現在と違って自然現象でした。地球は寒い時期と暖かい時期をゆっくりと繰り返しているんです。例えば、かつての日本列島が大陸と繋がっていたというお話を知っていますか?

かわたびくん 「ドラ○もん」の劇場版で見た事があります!

豊田主幹 縄文時代よりももっともっと昔、最終氷期の最も寒かった時期にはユーラシア大陸の突きだした半島になっていました。約1万5千年前から急激な温暖化がはじまり、海面が上昇していったんです。

かわたびくん じゃあ、縄文時代は今よりも暖かかったということ?

豊田主幹 その通りです。今から約7000年前頃の縄文時代は現在より数度以上気温が高かったと推定されていて、海面が上昇して海水が陸地の奥へ浸入していました。この現象を縄文海進(じょうもんかいしん)と呼びます。

かわたびくん どこまでが海だったの?

豊田主幹 新千歳空港ターミナルビルから南東側、国道36号線を苫小牧方面へ向かうとガソリンスタンドがありますよね。あのあたりまでは入江のように海が入り組んでいました。現在その南側には海退により残された海跡湖(かいせきこ)であるウトナイ湖が位置しています。


▲約6000年前の海岸線(推定)と美々貝塚の位置(千歳市教育委員会提供)

かわたびくん 今とぜんぜん違いますね!

豊田主幹 美々貝塚は今の海岸線よりも約17キロ北、北海道で最も内陸にある貝塚のひとつなんです。また千歳から北の石狩方面も今より海が近かった考えられています。

かわたびくん えーっ!じゃあ千歳は海に挟まれていたんですね。

豊田主幹 千歳はちょうど分水嶺(日本海側に流れる川と太平洋側に流れる川が分岐する地点)にあたるので、千歳川を下れば日本海側に出られますし、美々川や遠浅川を下れば太平洋側に出る事ができます。こうした立地から、古くから交通の要衝だったと推測されているんです。

かわたびくん 今は空港があって道内有数のターミナルだけど、昔は川がその役目を果たしていたんだね。ところで、美々貝塚はどんな貝が多いの?

豊田主幹 今もみなさんが食べているシジミと同じ、ヤマトシジミがほとんどで、次いでアサリやマガキが多いです。貝以外ではボラやスズキ、サケ類などの魚の骨、さらにトドやガン·カモ類などの骨、エゾシカの骨も見つかっています。土器のほか、石鏃(せきぞく)や石錘(せきすい)、銛頭(もりがしら)といった狩猟・漁労具も混ざっていました。

▲約6000年前の美々貝塚を描いた想像図。左に見えるのが美々川(千歳市教育委員会提供)

かわたびくん 何でも捨てていたんだね!

豊田主幹 でも貝塚は、イヌや人が埋葬されていることもあって、ただのごみ捨て場ではないんですよ。

かわたびくん もしもこのまま温暖化が進めば、千歳は再び海になっちゃうの?

豊田主幹 温暖化が進んだとしても縄文海進のような現象が起こるかはわかりません。ただ、過去を知ることは未来のことを考えることにつながります。縄文時代の貝塚は、昔に大規模な気候変動があったことを私たちに教えてくれます。私たちはこうした文化財を守り、その意味をきちんと将来に伝えていきたいですね。

▲美々貝塚保存施設内部にある「S-1貝塚」(千歳市教育委員会提供)

▲貝塚と同じ美々地区の遺跡から見つかった「動物形土製品」。何を模したか定かではないが、カメやオットセイ、水鳥などを模したとする意見もあるそうです。

▲千歳市埋蔵文化財センターは千歳川沿いに位置しています。縄文土器はもちろん、美々貝塚北遺跡の貝塚剥ぎ取り標本や江戸時代の丸木舟などを展示。川と人とのつながりを伺い知ることのできる施設です。

 

◉千歳市教育委員会教育部主幹(国指定史跡担当) 豊田宏良さん Profile 
昭和38年(1963年)北海道佐呂間町生まれ。早稲田大学大学院を修了後から千歳市教育委員会へ勤務し、埋蔵文化財業務に従事。平成25年から30年にかけて史跡キウス周堤墓群関係の調査を担当。31年度から現職。現在は同史跡の発掘調査、整備事業を担当している。

お問い合わせ
千歳市埋蔵文化財センター (北海道千歳市長都42-1)
TEL
0123-24-4210
URL
https://www.city.chitose.lg.jp/docs/95-43785-169-915.html

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