2022.01.25公開

[トリビアのみずべ]
流れる水がなぜ凍る?天塩川結氷のメカニズムを吉川先生が解説!

冷え込んだ朝に水たまりの表面を薄氷が覆う。冬の北海道ではよく見られる光景ですよね。
札幌などの都市部では、どんなに寒くて水たまりが凍っても、川が凍ることはありません。そもそも流れている水が凍るのを一般的にはイメージしにくいと思います。
しかし、北海道北部を流れる天塩川は、道内では石狩川に次ぐ大河であるにもかかわらず、毎年1月には全面結氷し、約2カ月間氷に閉ざされます。天塩川はどうして凍るのか。その疑問に北見工業大学 吉川泰弘准教授が答えてくれました。

かわたびくん 天塩川はどうして凍るんですか? 寒いから?

吉川准教授 簡単に言えばそういうことです。川が凍ることを「結氷(けっぴょう)」と言いますが、北海道内では寒さが厳しい道北、道東エリアで結氷しやすく、気温が高い都市部や道南では結氷は進みません。

かわたびくん 氷結?

吉川准教授 それは缶チュ◯ハイですね。

かわたびくん ごめんなさい…。そういえば、昔は石狩川が凍っていたと聞いたことがありますよ。

吉川准教授 昭和30年代までは石狩川河口でも結氷し、氷の橋が作られていたという記録があります。当時は今よりも気温が低く、また今よりも川が曲がりくねっていたために凍りやすかったのだと考えられます。
では、ひとつクイズです。川が凍る時、上流側か下流側か、どちらに向かって凍ると思いますか?

かわたびくん んー、か、下流側…?

吉川准教授 残念。上流側に向かって凍ります。ある場所で結氷が始まると、ここを起点にして上流へと結氷が進みます。ですから、気温が低いことに加え、勾配が緩やかな河口が北側にある、まさに天塩川のような川が凍りやすいということになるんです。

かわたびくん ふむふむ。では、川はどうやって凍るんですか?

吉川准教授 一口に「川」と言っても、流れが速い場所もあれば遅い場所もあります。川の真ん中は速くて、岸に近いほうは遅い。真っ直ぐな川は速い、蛇行していると遅い。橋脚の周りも流れは緩やかになります。

かわたびくん それはなんとなくイメージできます。天塩川も流れが緩やかな所から凍るんですか?

吉川准教授 そのとおり。下の写真のように川の両側から真ん中に向かって凍っていくのが典型的な結氷パターンです。

かわたびくん 川がだんだん細くなっていくんですね。

吉川准教授 この他にも川に降った雪がみぞれ状になって流れが緩やかな場所で溜まると、そこから結氷が広がっていったり、川底の石が冷やされて周囲に氷が形成されたり、さまざまなパターンがあります。

かわたびくん 川底の石に氷ができるんですか?

吉川准教授 この現象をアンカーアイスと言い、このアンカーアイスが剥がれて流れると取水(水道水や農業用水のために川から水を引き入れること)に影響が出ることがあります。その一方、氷が剥がれる時に石に付いた藻を取り除く現象も確認されていて、川や海の生態系に貢献しているという見方もできます。

川底の石にできたアンカーアイス(写真提供:寒地土木研究所)

かわたびくん 川が凍るのはきれいなだけではないんですね。

吉川准教授 全面結氷した天塩川はとても美しい光景ですが、春に氷が溶け出すと「アイスジャム」という危険な現象も起きるんです。

かわたびくん 「アイスジャム」って名前はおいしそうですけが、どんな現象なんですか?

アイスジャムで流れが停滞する河川(写真提供:吉川准教授)

吉川准教授 春が近づいて気温が高くなると、川を覆っていた氷が割れて下流に向かって流れ出します。その氷が橋脚などに引っかかるとダムのように流れをせき止めてしまい、川の氾濫を招いたりするんです。また、せき止められた水が一気に流れると鉄砲水になり、過去には人命が奪われる事故も起こっています。

かわたびくん 名前と違って、恐ろしいですね。

吉川准教授 例えば春先に川の水が極端に少なくなっていると感じたら注意が必要です。上流側でアイスジャムが発生し、水がせき止められている可能性があります。何かのきっかけで決壊しないとも限らないので、安易に川に近づかないようにしてください。

かわたびくん アイスジャムを防ぐ方法はないんですか?

吉川准教授 防ぐのは難しいかもしれませんが、発生を予測できないかと研究を進めています。氷の厚さを推定する計算プログラムで解氷の兆しを捉えたり、堆積箇所をシミュレーションしたり。発生が予測できれば、特に河川工事に携わる方々の安全確保に役立てられるのではと考えています。

 

◉北見工業大学 吉川泰弘准教授 Profile 
工学博士。北海道開発局勤務などを経て北見工業大学の教員に就任。寒冷地河川における治水・利水・環境・観光に関する研究に取り組む。
「川は私たちの生活に不可欠なものですが、寒冷地の河川を専門にする研究者は少数。人と川が上手に付き合っていけるよう、研究成果を生かしていきたいですね」

 


チャレンジしてみよう!
中川町では毎年、「天塩川の解氷」を予想する「解氷クイズ」を行っています。

天塩川春発信inなかがわ 解氷クイズ 2022


 

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